薄暗い廊下の向こうで、ふたりは向かい合っている。
何か話しながら、久保さんの目元を軽く拭う、有馬の仕草にギクリとした。
まさか、泣いていたんだろうか。
わたしがさっきぶつけた言葉のせいで。
久保さんを責めるつもりはなかった。
でもわたしや隼人くんの苦しみが、幸福な彼女には理解できない事実に苛立ったのもたしかで。
わたしの言い方が責めるように聞こえていたとしてもおかしくない。
ここは謝るべきだろうか。
一歩を踏み出せず迷っていると、先に有馬が動いた。
男にしては白く細い手が、久保さんの大きな団子のくっついた頭に乗る。
慰めるように2度、3度、彼女の小さな頭を撫でていた。
相変わらずの聖人の微笑みに、久保さんもほっとしたように笑う。
ふたりの間には、割って入るには相当な勇気のいる、特別な空気が流れていた。
なあんだ、そうか。そういうことか。
わたしがどうこうする必要なんて、はじめからなかったのか。
謝ろうという気持ちをその場に残し、わたしは来た道を早足で戻っていった。


