わたしだって、普通の家に生まれていれば。
お父さんが生きていて、特別長生きなんてしない普通の家系に生まれていれば。
隼人くんだって、両親がそろっていて、夜にはお母さんと一緒に眠れるような家に生まれていれば。
短冊に書く願い事に、悩むこともなかっただろう。
「それに……願い事なんて、叶わないことの方がきっと多いよ」
隼人くんが出ていったドアを見ながら呟いた。
それだけで久保さんはわたしの言いたいことがわかったようで、サッと顔を青褪めさせる。
この施設にいる子どもたちは、様々な事情をそれぞれ抱えている。
虐待を受けた子や、親に先立たれた子。
親が服役中の子に、親に捨てられた子。
親元を離れて安全に暮らせるようになりほっとしている子もいれば、泣く泣く別れることになった子もいる。
隼人くんはどちらでもなかった。
シングルマザーだった隼人くんのお母さん。
ある日突然、そのお母さんが消えてしまった。
夜の仕事をしていて、いつもなら明け方には帰ってくるのに、お母さんはある日を境に家に帰ってこなくなった。
隼人くんの誕生日のことだったそうだ。


