定時五分前、宣言通りに仕事を終わらせて、受付の階に降りる。
受付はすでに定時後の準備がなされているのを確認すると、更衣室の側で莉ヶ花が出てくるのを待つ。

出てきた莉ヶ花は、僕の姿を見ると驚いたのち

「お疲れさまです。副社長、何か御用ですか?」

と聞いてきた。
副社長呼びが他人行儀で、つい眉間にシワが寄ってしまった。
会社ではあるが、終業後だ。
名前で呼んで欲しくて。
鎌内さんから今日の莉ヶ花の様子を聞いてから

「やっぱり、無理してましたね?莉ヶ花、帰りますよ」

そういって、肩を抱いて歩き出す。

「玲一さん!!ここ、会社!」

という、照れてる莉ヶ花を眺めてから周りを見れば僕たちを見てがっかりする女子社員と男性社員が多数いる。
これで、僕にも莉ヶ花にも余計なアプローチをしてくる人間は減るだろう。
まさか、周囲の牽制のためにここまでしてるとは、きっと莉ヶ花は気付かないでしょう。
本人モテていることにも気づいていないのだから。

「もう、隠す必要はありません。莉々花は僕のプロポーズに答えてくれました。それなら莉々花は僕の婚約者でしょう?どこに遠慮する必要があるんです?」

周りに聞こえるように言う。
僕も大概余裕がない。

愛しい、大切な貴方のことでは僕は余裕をなくす。
でも、そんな自分が嫌いじゃない。

照れて、赤い頬の可愛い莉ヶ花をそのままエスコートして会社を後にして帰宅した。