オズは、私の答えに小さく呟いた。


ざぁ…っ!


風に吹かれて桜が舞い散る。

春の香りを感じた瞬間。

視界に藍色の瞳が映った。


───ちゅっ。


「!!!」


一瞬だけ掠め取られた唇に、熱が宿る。

ふっ、と笑った彼は、何事もなかったかのようにコツコツと駅へ歩いていった。


「ちょ、ちょっと、オズ…!」


「顔真っ赤。」


「!」


彼の指摘に、どきん!と胸が音を立てた。


すっ…


前を歩く彼が、私に手を差し伸べる。


「…もう、いなくなるなよ?」


(…!)


その言葉に、私はくすりと笑う。


「オズは不思議の国まで探しに行っちゃうもんね。」


「…過去の傷をえぐるな。」


彼は、わずかに頬を染めて目を細めた。


「…どこへだって行くよ。あんたの為ならな。」


どきん…!


心に響く彼の言葉が、今までの記憶を呼び起こした。

…私たちは、心を隠し合った。

嘘の仮面をつけて、本当の気持ちを言えなかった。

でも、今は違う。


「…“優”!」


「!」


立ち止まって振り返る彼に、“偽りのない私”が映った。

回り道をしても、ずっと追いかけてくれた彼に届くように。

私の声が、桜の舞う空に響いた。


「大好き!」


エピローグ*終


ー完ー