穏やかな口調に似合わぬ言葉に、チェシャは目を見開いた。
ぱさり、と新聞を置いたウサギは、紅茶をすすって続ける。
「何のために僕が人間界から“連れてきた”と思ってるんだい?」
チェシャは、ぴくり、とその言葉に肩を震わせた。
「あの子は、偶然ウサギの後をつけて来ちゃったんじゃないの…?」
するとその時。
ウサギはまつげを伏せて静かに答える。
「“偶然”なんてものはないよ、チェシャ。この世の全ては“必然”さ。」
ウサギから語られたことに、チェシャは目を細めて呟く。
「…あの子を“エラの代わり”にしようと思って連れて来たの…?」
「………まさか。」
部屋に、しぃん、と沈黙が流れた。
カチ、コチ、と時計の音だけが響く。
カチャ…、とティーカップを置いたウサギは、表情を変えないまま続けた。
「あの子をエラだと思ったことは、一度もないよ。…エラは、もういない。」
「!」
それは、どこか寂しげで、儚げで、諦観しているような声だった。



