電車を途中下車して、章は私の手を引いて歩き始めた。
手を引かれるのに、すっかりと慣れてしまった。


そしてとある公園にたどり着いた。
章は公園の中にずんずんと進む。

そして公園の奥には‐杜若が咲く池だ。
数本、早く咲いた杜若が咲いている。

「知ってる?この花の名前」

「杜若、ですね」

「よく知ってるね。普通みんな菖蒲(しょうぶ)と間違える」

章がゆっくりと池に近づく。

「俺の祖母・・・『ばあば』と呼んでいたけど、ばあばが好きな花だった」

そう言って池の遠くの方を眺めた。

「杜若に・・・『待てば幸せがやってくる』という意味がある。
海洋学者だった祖父を待ち続け・・・行方不明になってもだ。
その時にお腹にいたのが、俺の父。末っ子の父を大切に育てたけど、結局父も学者になって世界を飛び回って・・・いつもばあばは帰りを待ち続けた」