スーツケースがパンパンになるぐらい、洋服を詰め込んだ。
すると章は、それをひょいと抱えて

「じゃ、あと必要なもんだけ持って」
そう言って玄関に行って靴を履きはじめた。

何がいるっけ・・・?
とりあえず仕事に使っているかばん一色と、化粧道具や身だしなみ用品をボストンに押し込んだ。

「じゃ行こうか。そろそろ30分になるし」
章はさっきのボストンも奪って、部屋を出た。
鍵をかけている私を置いて、章はスタスタと歩いていく。

もう1度言わせていただきたい言葉。


「わがままで強引・・・」

ぼそっと呟いたが、章には届いていないようだ。


「ほら、行くよ」
エレベーター前で待っている章に追い付くと、章は私の肩を抱いた。


もう1度、章にわかるように呟く。

「わがままで強引・・・」


すると章は‐一瞬嫌な顔をした、かと思いきや・・・人差し指をぐっと私の唇に押し付ける。


「これ以上言うと口で塞ぐよ?いいの?」

睨み付けるような、鋭い目。
不覚ながら一瞬ドキっとなる。


でも我に返って「絶対嫌!」と言いながら私は手を払いのける。
やっぱり欧米人・・・その言葉もぐっと呑み込んだ。