「・・・でも、何で『まなみ』なんだ?」

そう、元々私は『エミ』という名前だった。


私は、思わず俯いてしまう。
言葉を選びながら・・・ゆっくりと話す。

「親からも、みんなからも・・・『エミ』って呼ばれる度に動悸が走るようになって、取り乱すようになって・・・」

私は事件直後『エミ』と呼ばれる度に・・・『あの人』の顔がよぎり震えが止まらなくなっていた。

「弁護士の人に、『それだったら、しばらくの間でも読み方を変えてみては?』って提案されたの。役所ですぐに訂正できるって教えてくれて。
幸いにもいくつも読みがある名前だから」

あの弁護士の人は、私達にすごく協力的だった。
『あの人』の尻拭いを何度も何度もしていたんだという。

「結局それで『まなみ』と読み方を変えて、念のために『渡邊』から『渡辺』に変えた。
旧字体から変えるのは簡単だったから」


名前を変える決断をした時、お父さんは、私にこう言った。
「過去を捨てて、新しい名前で新しい人生をやり直そう」と。


‐その言葉があったから、立ち直ることができたのだ。


「結局、『愛美』の漢字でも不安感はぬぐえなくて、すぐにひらがなで名乗るようになった。
それで就職と同時に、ひらがなに改名したの」

何年も弁護士の人に相談していたから、わりとうまくやってくれた。
何か偽装したかも知れないけれど、それはよくわからない。