校庭の中央には、猿の着ぐるみが手を振って待っていた。


猿の足元から左右に伸びているのは、一本の綱。


その綱のちょうど真ん中には、地面に大きく赤線が引かれている。


「第2競技は綱引きです。今から3本、紅白に分かれて綱引きをしてもらいます。2勝したチームの勝利となります」


単純明快なルールだ。


誰もが知っている力比べ。


それなのに私たちは、白組も含めて誰1人として綱に触れようともしなかった。


2勝すれば、相手チームから誰かが失格となり、2敗すれば、自分のチームから失格者が出る。それを決めるのも自分たちだ。判断を下す責任が重くのし掛かる。


どちらにせよ、誰かが消えるというわけだ。


自分たちの手で、クラスメイトを消し去っていく。


それがこの【運動会特別プロジェクト】なんだ。


だからこそ、綱を掴むのを誰もが躊躇していた。


時間だけが過ぎていく__。


できることなら争いたくはない。戦いたくない。同じ季節を共に過ごしたクラスメイトと競うだなんて、私には考えられない。


それは安藤くんも同じ、いや、それ以上に苦悶の表情を浮かべている。まして白組には木崎さんが居る。


2人はいつも一緒だ。


安藤くんが、彼女を窮地に追いやるなんて考えにくい。仲間を大切にする間宮くんも、悔しそうに唇を噛んでいる。


けれど急に___綱が動いた。


誰かが綱を掴んで持ち上げたからだ。