【木崎涼子】
私か直人、どちらかが勝者となる。
それはつまりこの理不尽な運動会の、唯一の生き残りだ。
たくさんの命が失われたこと、それも不本意に。そのことを決して、忘れてはいけなんだと私は思う。
勝ち残った者の足元には、そうした数々の思いが横たわっていることを、心に刻まなければならない。
その責任がある。
恐ろしい運動会があったことを、伝えていかなければいけないんだ。
そしてそれは__私の役目じゃない。
直人が、安藤直人が適任なんだ。
だから私は__。
「ありがとう、直人」
そう言って、思い切り直人の胸を突いた。
えっ⁉︎と、そのまま後ろに倒れる。尻餅をつき、唖然と私を見上げる直人が、もう見えなくなる。
もっとその顔を見ていたいのに。
1秒でも多く、感じていたいのに。
涙が邪魔をして、見えなくなっていく__。
「__涼子⁇」
声が聞こえた。
直人の声だ。
私の心を暖かく包む、優しい声が震えている。
「ありがとう、直人」
もう一度、私も声で伝えるつもりだった。
溢れる気持ちを言葉にして、最後に__。
でも、それは叶わなかった。



