【木崎涼子】
私は、バトンを受け取った。
新しいバトン。全てを無かったことにする、絶対的な力。でもそれを目の当たりにすれば、死ぬまで心に刻まれるだろう力。深く深く、私たちの心を抉(えぐ)るんだ。
でも、これは白組のものじゃない。
白組は、先頭の樋口美咲がもうスタートラインに立っている。
これは紅組のバトンだ。
紅組唯一の生き残りである、安藤直人が持つべきものだった。
「直人__」
私は何度も名前を呼びかけ、バトンを目の前に差し出すも、直人の心には届かない。
大きな爆発音によって、崩れ落ちるように膝をついた直人は、そのまま前屈みで地面に伏せている。
その両拳が、地中に深く食い込んでいた。
きっと直人は、立花薫だけじゃなく、裕貴のことも責任を感じているはずだ。
傍若無人だったが、こんな形で終わることを望んではいない。
それは私だってそうだ。
それをいうなら、誰1人、居なくなる必要なんてない。
こんな運動会になんの意味があるのか?
どうして私たちは、もう3人しか残されていないのか?
それでもまだ、続けるというのか?
最後の1人になるまで?
「早くスタートラインに立って下さい。立たない場合は、失格とします」
それは完全に、直人に向けてのアナウンスだった。
慌てて私も膝をつき引き起こそうとしたが、その手を振り払われた。
そして直人は叫んだんだ__。



