「おいブタ‼︎もう諦めたのか⁉︎」
激しい雨音に混じって、裕貴の嘲りが聞こえてくる。
もう真後ろにいるのだろう。
こいつは何も変わらない。この運動会において、なんら印象が変わらないのも珍しい。非日常的な状況に陥ると、人は別の一面を見せる。そういう意味では、戸田裕貴はただ残忍さを浮き上がらせただけだった。
同じ白組なのに、私を応援する女子たち。
私はその期待に応えられそうにない。
なぜなら、もし私が走り出して裕貴から逃れたとしても、次の安藤にバトンを渡すだけ。苦痛を次の人の手に渡すだけなんだ。
かといって私も__追い抜くことはできない。
美咲が私にしたように、涼子が私を追い抜かなかったように。
きっと私も、2人を追い抜くことはできないだろう。
変に芽生えた友情なのか?
育てることができないからこそ、生まれた感情なのではないだろうか?
それはとても暖かく、雨で震えた心を優しく包んでくれた。
「爆発しやがれ‼︎」
私は振り向いた。
ちょうど、裕貴がしたり顔で私を追い抜いていく。
私には、もう逃げる力は残されていなかった。
安藤が必死で私の名を呼ぶのが聞こえるが、このバトンを渡すことはできそうにない。
誰かを追い抜くこともできない。
でも__。



