悪魔の運動会



「早く追い抜きなさいよ‼︎」


寒さからくる震えを吐き出すように、私は怒鳴った。


誰もが終わらせたいはずだ。


こんな悪魔のような運動会、もう終わりにしたいはず__。


「さっさと追い抜いたらいいじゃない‼︎」


真っ直ぐに、美咲の目を見上げる。


何をしているのか⁉︎と。


私ならチャンスは逃さない。1度手放したチャンスは、もう2度と戻ってはこないからだ。そうしないと、永遠に終わらないじゃないか‼︎私なら絶対、私なら。


それでも美咲は目をそらさない。


前に進むこともしない。


「何やってんだよ‼︎」という裕貴の叫び声は、蚊帳の外だった。


雨音だけが聞こえてくる。


私は、立ち上がった。


そして走り出した。


振り返らない。


振り返らなくても、私は分かった。いや、分かっていた。だから美咲に噛み付いたんだ。


はなから美咲は、私を追い越すつもりなんてない。


グラウンドを走りながら、私は思う。


もし美咲の立場なら、私は本当に追い抜くことができるだろうか?


失格になる__でもそれは、跡形もなく存在が消えること。


果たしてそれが、私にできるだろうか?


スタートラインに近づく。


未だに毒づいている裕貴と小競り合いをしていた安藤が、手を差し出す。


私はその手に、バトンを渡した。


みんなが繋いでくれた、命のバトンを__。