【伊藤明日香】


まさか、戸田裕貴が舞い戻ってくるとは__。


大玉転がしで叩きのめした私を見て、不敵に笑う。


鼻がへしゃげ、右上瞼が腫れ上がり、化け物みたいなおぞましい顔をしていたが、その眼光だけは鋭い。


「それではルールを説明します。これより紅白3名ずつでリレーを行なって頂きます。それぞれ1人一周グラウンドを走って頂き、一周遅れとなった時点でバトンを持っている者を失格とします」


私たち紅組は、安藤と立花薫、そして私の3人。


木崎涼子と樋口美咲の白組に、復活してきた戸田が加わる。


一周遅れとなった時点で、失格。


逆にいえば、一周遅れがつかない限り、永遠に走ることになる。


なかなかグラウンドまるまる一周の差がつくことなんてない。


その時点でこのリレーは、耐久戦。


速さじゃない。


私たちの中に、格段に足の速いものも、飛び抜けて遅いものも居ない。


体力を少しずつ消耗していくリレーとなる。


「俺が1番にいく。立花が次で、伊藤が最後だ。申し訳ないが、今の時点で戸田の順番は分からない」


安藤が言うところの意味を、私は瞬時に察した。


できるだけ、私と戸田裕貴がかち合わないように気遣ってくれたんだろう。


あいつは必ず、私に仕返しに来るから__。