【相原友子】
見ちゃダメ。
前を駆けていく立花薫の背を追いかけながら、私はそう自分に言い聞かせた。
見てはいけない、と。
例えば恋人の携帯電話。そこには、見なくていいものが潜んでいる。あえてそこから目をそらすことで、円滑に回っていく日常というものがある。
恋人でもなんでもないけれど、私にとっては最も信頼できる人だ。
だから信じるんだ__。
「何これ」と、毒づいてお題を睨みつける薫。
やがて思いついたのか、校舎に向かって駆けいく。
すぐに私も箱に手を突っ込んで、お題が書かれた紙を引いた。
その場で開いて確認する。
できれば私も、人がいい。学校中を探し回るよりも、その人への思いを伝えることもできる。ずっと慕ってきた相手、でも、片思いの相手、でもこの際かまわない。
私はすぐに安藤くんの元へ向かうのに__。
「何よ、これ」
薫と同じ呟きでも、意味が異なる。
お題が指し示すものが【何】か分からないわけじゃない。
私が望んだ通り、お題は人を指していた。でも、好意を上乗せできるような、そんな優しいものではなく。
「こんなの無理よ。引き直させて?」
猿にそう頼んだ途端、不正解の音を鳴らされた。
私は誰かを連れてこないといけない。
その人の手を引いてこないといけない。



