【樋口美咲】
ブー。
猿がブザーを鳴らす。
「だから私だって言ってるじゃないの‼︎」
そう何度も言うのだが、言葉が分からないのか猿は首を傾げるばかり。
そうこうしている間にも、明日香は探し物を見つけに行ってしまった。
あの力強い足取りは、検討がついているんだ。
だから私も一刻も早く、書かれているお題のものを探しに、ここから離れなければならない。
ここに居たって見つからないのだから。
いや__。
私は自分の胸元をギュッと掴む。
「私なの!いい?私がそうなの‼︎」
離れる必要なんてない。
だって私は、もう見つけたんだ。
なんて抽象的なお題だと思ったが、ストンと頭の中に落ちてきた。
これは【私】なのだと。しかし、忌々しいブザーが鳴る。
「じゃ反対に教えて。私じゃなかったら、なんなの?あなた、これ以上のもの探して持ってこれるわけ?それなら諦めるわ。でもそうじゃないなら、私も引き下がれない」
言葉が通じない猿に言い聞かせるよう、力を込めて力説する。
しかし猿は、耳を塞いで「聞か猿」のポーズだ。
あまりに一方通行なためか、汗が吹き出てきた。髪が額に張り付く。
私は1つに括っていた髪を解く。
手ぐしで解(ほぐ)し、かきあげ、また1つに束ね直すのを、ジッと猿が見ているのが分かった。今度はゆっくり悟すように__。
「負けたっていい。失格になっても構わない。でも譲れないものがあるのよ」



