【安藤直人】


「俺が行く」


それには2つの理由があった。


1つは、先ほどの投票で生かされた命だということ。


ルールによると、負けたほうが失格者となる。


みんなに救われた命、ここで捧げるのが俺の務めだ。


そしてもう1つ__。


校庭に出ると、旬が足を伸ばして屈伸していた。準備運動だ。これからの競技に備えて。


俺と目が合うと、ゆっくり立ち上がってこう言った。


「いいのか?」


短い問いかけだが、俺には分かる。


その後に続くはずだった言葉が、嫌でも分かった。


「俺に勝ったことがないのに、それでもいいのか?」


と。


そう、俺は足の速さでは、確実に旬に劣る。今まで一度も勝ったことはない。


でも、立花や伊藤ではもう話にならない。


旬が出てくるだろうと分かった時点で、俺が行くしかない。


万に1つでも勝てる可能性のある俺が、走るんだ。


「今日、初めて勝つかもしれない」


そう言うと、足には絶対の自信がある旬はフッと笑った。


負け惜しみなんかじゃない‼︎と言い重ねようとしたが__。


「そうだな。今日は何が起きるか分からない」


「まぁな」


「それに俺は__なんだかワクワクしてる。不謹慎か?」


「そんなことはない」


俺もだ。


そう心の中で呟いた。