【伊藤明日香】


立花薫のタックルを受け止められる猛者なんているのか?


後ろ足を演じながら、私は改めてその大きな背中を見つめていた。


昔から背が小さかったから、憧れがないことはない。


でも、ここまで大きいのもどうかと思う。


それに、私は気づいていた。


薫が微笑んでいるのを。


正面からぶつかり合うのを見据え、興奮している。


おかしな話だが、その気持ちが少し分かるような気がした。


体格差こそあれど、どこか心の中に激(たぎ)るものを抱えている。


それが共鳴というのだろうか?


騎馬と騎馬が衝突しても、後ろの私には衝撃すら伝わってこなかった。


敵に回すと脅威だが、味方だと心強い。


向こうの馬だった美咲と相原友子が、吹き飛ばされて地面に倒れているのが見える。


気の毒だが、薫が相手では仕方ない。


勝った。


隣で組んでいた安藤と、頷き合った。


1秒でも早く、うちの騎手殿を下ろしたい。なんなら放り投げてもいい。


人の上にのっかかって、殿様気分の寺脇リカ。


何をするわけでも、何をしたわけでもない、何もできない女だ。そのくせ、文句だけは一人前。


8人の中で落ちるなら、明らかにリカだろう。


そんなことを考えていたら、突然、馬が啼いた。


「罠よ‼︎」


薫が叫んだんだ。