【野々村哲也】


「体を大きく回しましょう‼︎1.2.3.4‼︎」


声に促されるように、着ぐるみはグルンと大きく体を回す。


それにならって、ほぼ全員が体を回す。学級委員の安藤直人の一言で、波にさらわれたように3年C組が体操を始めた__俺たち以外は。


俺と戸田裕貴がバカみたいに踊るわけがない。


「マジだりー」


もちろん、森本瞳もだ。


俺たち3人は地べたに座り込み、煙草を回していた。


携帯と一緒に煙草も没収され、1本を回し吸いするしかない。まぁほぼ、裕貴が吸っていたが。


「両足跳びの運動です‼︎」


また音楽のテンポが変わり、ぴょんぴょんと飛び跳ねる着ぐるみに、女子どもから笑いが沸き起こった。


「哲‼︎何やってんだよ⁉︎」


裕貴のがなり声に俺は振り返る__飛び跳ねながら。


「いや、体が鈍(なま)っちまうからな」


とは言ったものの、普段は俺たちから目をそらす女どもが、チラチラと俺のほうを見て笑っている。真面目にラジオ体操をする俺を、着ぐるみでも見るかのように笑う声は、どこかこそばゆくて悪いものじゃない。


それに気づいた裕貴も、大袈裟に跳び上がってみせる。


黄色い歓声を浴びつつ、再び腕の運動に戻った俺たちの背に__。


「お前ら、バカか?」


瞳の呆れた声が突き刺さった。