俺は茜を抱えたまま、ゆっくり歩き出した。


今にも背中を撃ち抜かれそうな気がしたが、俺の行く道を悟ってか、動物たちも襲ってこない。


なぜなら__その先に道なんてないからだ。


「ねぇ、お願い。下ろして。私はいいから__ねぇ‼︎」


足をバタつかせて暴れるものの、肩を負傷している女子を1人、お姫様抱っこするのは難しくはない。


お姫様、まさに俺たちのお姫様だった。


王子様なんて似合わないけど、最後くらいはカッコつけさせてほしい。


「茜、守ってやれなくてごめんな」


「浩二__」


ぼろぼろと涙を流すお姫様。その涙を拭ってやることもできない、頼りない王子様だけど__。


「茜、告白したらオッケーしてくれてたか?」


こんな時にと自分でも思ったが、こんな時だからこそ訊いておきたかった。


「__うん」


茜が腕の中で頷く。


こんな時だから、本心じゃないかもしれないが、それでも嬉しい。


そして力を抜いて、心まで俺に委ねたのが分かった。


「いいか?」


もう、目の前に踏み出す道はなかった。


あと一歩進めば、屋上から落下する。


「うん」


健、周平、約束、守れそうにない。


でも、俺たちのマドンナに、寂しい想いはさせなくて済みそうだ。


それで勘弁してくれよ。