【久米茜】
私は、歴史的瞬間にかち合ったのかもしれない。
白組にかなりリードを許していた。それは、網の中で相原友子が、戸田裕貴に足首を掴まれていたからだ。
頼りの安藤直人も、1人で2人を押さえ込まないといけない。
最後尾だった私は先に網から出ると、戸田裕貴に向かって砂を投げつけてやった。
口汚い罵声から逃げるように、高い壁までやってくると、どうやら2人が揉めている。
女王様とそのシモベが、睨み合っているではないか。
作戦通り、相原友子を壁の向こうに押し上げた。それでもまだ2人は睨み合っている。
どうやら、どちらが跪(ひざまず)くかで揉めているようだ。
__美咲が屈むわけなんてないじゃない。
融通がきかないのは清水奈々のほうではないかと、訝しんだ。
構わずに壁をよじ登ろう。私の力だけでは難しいけど、とりあえずロープを掴む___その手を思わず離したのは、隣で繰り広げられている根比べに終止符が打たれたからだ。
えっ⁉︎と自分の目を疑った。
目の前の光景__美咲がゆっくりと膝をつこうとしている__が、信じられなかった。
あの女王が陥落するところを、目の当たりにしようとしている。
野球部のメンバーも、かなりの数が美咲に告白し、ものの見事に玉砕されていた。高嶺の花を気取る美咲が、私は以前から好きではない。
だから私は。
だから私は、思わず口元が綻ぶのを止めることができなかった。



