「あ、勇(イサミ)だ」


彩羽の言葉にあたしの心臓はドクンッと大きく跳ねた。


彩羽の視線を追いかけると、席を立った源勇(ミナモト イサミ)の姿があった。


あまり目立つ存在ではないし、それほどカッコいいわけでもない。


それでも2年A組で一緒のクラスになってから、あたしはずっと勇を見つめていた。


それは2年に上がってすぐの頃。


体調を崩したあたしは保健室で放課後まで過ごしていた。


その時に鞄を持って来てくれたのが勇だったのだ。


『なんで勇が鞄を持ってくるの?』


そう聞いたあたしに勇は『気になったから』とだけ言い、保健室を出て行ってしまった。