――あれから2週間くらいの時が流れて、矢川くんと初めて話してからそろそろ1ヶ月。
1年で1番と言っていいくらい、私がブルーな気分になる月。

お姉ちゃんから教えてもらったんだけれど、今の私みたいに気分がスッキリとしない事を『メランコリー』って言うんだって。

「・・・それじゃあ、次。借り物競争をやりたい人、手を挙げてね」
そう言いながら黒板にきれいな字を書いてくのは、担任の小村絵里(コムラ エリ)先生。
いつもニコニコ笑ってて、怒ってるところを見たことがない。

だからなのか生徒・・・特に男子に大人気で、5年生とか6年生の人達がせいぼとか天使だって言ってるのを時々見かける。


今は6時間目の学活で、運動会の種目決めをやってるところ。
運動とか体育の授業が苦手な私は毎年『雨が降って中止になりますように』とお願いしながら逆さのてるてる坊主を作るほどこの行事が嫌い。
去年の運動会の後には窓につるしてあったてるてる坊主の頭が全部床に落ちてて、お姉ちゃんびっくりしてたっけ。

・・・まぁ必ず参加しなきゃいけないから、結局どれか選ばなきゃダメなんだけれど。


私たち3年生が出る種目の中で一番距離が短くて人気がありそうな80m走はきっと最後の方だろうから、それまで時間はまだまだある。

ぼーっと窓の外を見てると、つんつんと誰かに右肩をつつかれた。
「なあに?どうかしたの??」
小声で訊くと「え、暇だから」と即答される。
ええ・・・。別にダメとは言わないけれど、だからと言っていいよ、とも言えない。


――あ、そうだ。
「矢川くんはさ、運動会の種目、何選んだ?」
ふと思い付いたことを尋ねると、しばらくして「・・・80m走」と返ってきた。わ、一緒だ。80m走本当に人気あるなぁ。

「どうして?」と再び聞いたら「山下さんは?」と逆に質問された。

「私も80m走だよ。運動苦手なんだ」
そう答えると「そっか」の一言。
そして途切れる会話。

会話が終わってから数分後、私の中には再びたいくつという感情が生まれ始めてきた。
でも話す内容とかを考えてまで、『もっともっと矢川くんと話したい!』とは思ってないしなぁ・・・。

もうお昼寝しようかな。ちょっとくらいならいいよね。
そう思い、目を閉じかけた時。