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「決まった?」

 J168が言った。もう約束の日が来てしまったのだ。

 理麗は困った顔をする。

「まだ……」

 J168は鼻から大きく息を吐き、

「それは困ったな。どっちか決めてくれないと」

 少し呆れた声を出す。

「だって何も分かんないんだもん。そんなのムリだよ」

 何もヒントをくれないJ168に不貞腐れてみせた。

 するとJ168はわしわしと髪を撫でて、

「そう…。じゃあ理麗だけ特別だからな。本当はこんな事しちゃいけないんだけど…。ほら、これが理麗の運命の赤い糸で結ばれている二人だよ。さぁ、選んで」

 と言って、写真を二枚差し出した。

 理麗はドキドキしながら、その写真を受け取った。そしてその写真を見て、理麗は息が止まる程動揺した。

 一路じゃない。その写真に映っている人物は、どちらも理麗の知らない顔だった。

「なんで…だって、婚約してるのに……」

 とその時、何故か硝子の靴が落ちて無残に砕けた。

 理麗は指先が震え、自分で自分の手を握った。

 これで完全に一路とは縁が無かったと判明した。

「イチロくんとは最初から結ばれて無かったんだね?」

 理麗はJ168の体を掴んで訊いた。そんな理麗の顔を、J168は黙ったまま冷静に見つめている。

「信じてたのに…どうしてなのっ!?」

 大声を挙げた。




 視界は徐々に白茶けて行き、ぼやけていた焦点がはっきりと見えてくる。そこにはJ168の姿は無く、天井があった。それでベッドで寝ていた自分に、状況を把握した。

「……夢?」

 ほっとした様な…悲しい様な…複雑な気分だった。

 天窓の向こうはまだ藍色をしている。

「イヤな夢見たな…」

 理麗はボソッと呟くと、朦朧とした頭を布団に潜らせた。