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 J168は本部の食堂にいた。

 食堂では長く繋がったテーブルの、食事をする場と、丸くて白いテーブルの、休憩する場に分けられている。

 人も疎らな食堂で丸いテーブルに着き、砂糖の入っていないミルクたっぷりのコーヒーを目の前にして、思いを巡らせていた。

「何、暗い顔してんの?」

 遅めの昼食をとりにやって来たm10がトレーを片手に話し掛けて来た。

 髪の毛の色素が淡い短髪。色白の肌。奥二重の目に黒いフレームの眼鏡。太い鼻柱にやや厚めの唇。筋肉質な体型に、グレーのVネックのカットソー、黒のワークパンツとブーツといった服装。

 m10はJ168より一つ年上の情報部の者だ。赤い糸に関わる情報管理をこの本部内で行っている。ディスポウザーとは違って、直接、糸を始末しに行く事は無い。

「んー…、今回の件でちょっとね…」

「何? どうした?」

 m10は隣の椅子に腰を下ろした。

「ん…今扱っている糸はどちらも子供なんだ。あんな子供を始末するのかと思うと、やっぱ複雑。いくら任務でもね…さすがにね…」

「ディスポウザーのくせして、まさか良心を痛めてるとか言わないでくれよ」

「おかしいか?」

「今迄だって何十回って始末してたかもしれないのに?」

「してないかもしれない」

「いや、してるね。覚えてないだけで。って判んないけど」

 ディスポウザーも世間と同様に、糸を始末すると、その人物の存在を徐々に忘れる。

「………」

 次第にJ168の眉間に皺が寄り、唇が尖ってゆく。

 その顔を見て、m10は 子供かっ! と突っ込みたくなったが、

「ここにいる限りは色んな糸を斬るよ。判ってるでしょ? 割り切るしかないね」

 と、真面目に諭しておいた。

「…判ってるよ」

「a2なんてバサバサ任務を熟してるよ」

 a2は、一人で仕事をするようになってからまだ1年にも満たない。J168より二つ年下のディスポウザーだ。

「あれは特別だ」

 J168は突っぱねた言い方をする。

 m10は立ち上がって、

「仕事だよ」

 と言って、J168の頭をくしゃくしゃと二回撫でると、ニッと笑ってカウンターへと去った。

 多分m10は、自分達の使命だから考えても仕方ない。何も考えずに割り切って始末しろ。と伝えたかったのだろうと、J168は受け取った。

「判ったよ」

 J168は、カウンターでおかずを器に注いでいるm10に向かって、小さく言った。