「それって芹奈先輩のバイト先の奴?」
不意に頭に過った。
以前、テツがそう言ってたのを思い出した。
だけど、誰かまではわかんねぇ…
「そう。知ってるの?」
「いや、誰かまでは知らねぇけど」
「あー…なるほど。だから俺、芹奈に迎え頼まれてたわけ?」
思い出したように晴馬先輩は口を開く。
「そうだよ」
「んで誰?」
「D組の高木だよ」
今まで思い出さなかったのに、その名前を聞いた途端にそいつの顔が浮かんだ。
あの辺のグループにはあまり詳しくないが、名前を聞けば大体わかる。
「あー…思い出した。俺が入院送りにした奴のツレだわ。つかあんな奴とバイトしてたんかよ」
「あたしが悪いの!あたしが、あたしが芹奈ちゃんにバイト頼んだから」
急に声を上げて泣き出した萌先輩に俺と同様、晴馬先輩までもが目を見開く。
「おい、萌。どした?」
蹲って泣きじゃくる萌先輩の頭を晴馬先輩は何度か揺する。
「あたしの代わりに芹奈ちゃんに頼んだの」
「はぁ?何の代わりだよ、」
「ドジって指骨折して出来なくなったから」
「あ?お前、骨折なんかしてたのかよ。知らねーぞ俺は」
「だって晴馬君に言ったら馬鹿にするじゃん!!」
「おー…それは確かにドジだな、お前」
「ほらっ!!」
予想通りの萌先輩に思わず苦笑いが漏れる。
すげぇ可愛い顔してんのに、どうやらドジらしい。
だけどそんな萌先輩の頭を「わーったから泣くな」そう言いながら撫でる晴馬先輩の姿を俺は今まで見た事がなかった。



