「…透哉?」
マドカの声でハッと意識が戻る。
覆いかぶさる俺の首にマドカの腕が回る。
「…やっぱ出来ねぇわ」
そう呟いた途端、更にマドカは俺を強く抱きしめた。
「約束したでしょ?」
「悪い」
「あたしの事、好きじゃなくてもいいから。昔みたいに」
「マドカ?俺はあん時の俺じゃねーよ…」
「なんで透哉、変わったの?」
「変わったんじゃねーよ。今の俺が普通…ごめん」
グッと抱きしめられたマドカの腕を振りほどく。
立ち上がって緩々になったネクタイを無造作に直し、
「俺の事、諦められなかったらそれはそれでいい。だけど俺はマドカとは付き合う事も、それ以下の関係も出来ない」
そう言って俺は扉に手を掛けたその瞬間。
「…分かったよ」
マドカの悔しそうな小さな声で俺はここから足を進めた。
今までにないくらい芹奈先輩が頭に浮かび、俺の感情を揺さぶる。
会わない方がいい。と言われてから、もうどれくらい会ってないんだろう。
と言うよりも、それから芹奈先輩が学校に来ていないと言う情報を知った。
だから会わずにじゃなくて、元々は会えなかったんだと気づいた。



