「ヒロさん、俺あんま切りたくないんすけど」
「おー、大丈夫、大丈夫。今回、色だから」
「色っすか?」
「そーそーなんかしてほしい色ある?」
「あー…しいて言えばアッシュかな」
「おー、いいとこつくね」
笑みを漏らすヒロさんはパチンと指を鳴らせた。
「凄い試してほしい色あってアッシュグレー。それ掲載したいんだわ。あと、んで髪整えるだけ。毛先整えるくらい切っても問題ないだろ?」
「まー、そんくらいは」
「で、お前どした?」
クスクス笑いだすヒロさんに「え?」と鏡越しから視線を送る。
「女と抱き合ったわけ?すげぇ香水の匂いすんぞ」
「……」
無言で俺は腕を上げ、匂いを嗅ぐ。
たしかに俺の香水の匂いより、はるかに違う匂いがした。
「お前、遅れるってその理由かよ」
「は?ちげーし…」
「変わらずお前は女に堪えないな」
「別にそんなんじゃねーけど」
「この前、オサムがさ透哉の代わりに女に会ったっつってたよ」
「なんでヒロさんにまでそんな事、言ってんだよ、あいつ。むしろ今日だってオサムで良かったんじゃねーの?」
「あー、アイツはダメ。この金に近い色が一番マッチしてて変えたくないらしい」
「ふーん…」
他愛ない会話をしながらヒロさんは俺の髪を染めていく。
俺じゃなく他の奴なんて山ほどいるのに結局は俺。
だからと言って特に断る理由もなく、俺は毎回ヒロさんの頼みごとをすんなりと受けていた。



