「…上書きしてもい?」
ゆっくりと身体を離した。
芹奈先輩は「上書き?」と訳の分からない表情をする。
「俺の中から消したい」
芹奈先輩の唇を撫ぜる様に両頬をそっと両手で触れる。
勘づいたように俺の目をじっと見つめる芹奈先輩は、視線を下に落とす。
「…いいよ」
ゆっくりと動く唇。
その唇が塞ぐ瞬間、俺は自分の唇を重ね合わせた。
唇を重ね合わせながら、芹奈先輩の後頭部に手をやり徐々に先輩の身体を倒していく。
仰向けになる先輩の上から俺は何度も唇を交わした。
息が出来なくなるほど無我夢中で、時折、芹奈先輩の微かな吐息が耳を掠める。
舌で先輩の唇を開くと、そこの俺は自分の舌を滑り込ませた。
「…んっ、」
小さく漏れる先輩の声とともに絡め合っていく舌。
だけど先輩に違和感を覚えた俺はピタッと唇を離した。
「…芹奈先輩?」
真上から見つめる芹奈先輩の瞳から涙が伝う。
そしてまた新たな涙か滑り落ちた。
「ごめん…」
「違うの」
首を振る芹奈先輩は自分の涙を拭う。
「どした?」
「…思い出したくないのに思い出しちゃう」
「もう、思い出すなって。俺で消してやるから」
「ん、」
「先輩。俺と付き合って?」
「あたしでいいのかな…」
「芹奈先輩がいい。だから俺のものになってよ」
「…うん」
まだ少し震えた唇に再び重ね合わす。
もう思い出すな。アイツの顔が頭を過るだけでまた頭に血が上りそうになる。
何もかも全てを消すかのように俺は何度も唇を交わした。
だけどそれ以上の事は何故か躊躇い、俺は何も出来なかった。



