「…透哉、くん?」
戸惑った芹奈先輩の声が密かに落ちる。
抱きしめた拍子、少し強張ってた芹奈先輩の身体が徐々に柔らかくなったのを感じた。
今まで触れられなかった芹奈先輩を抱きしめた途端、俺の体温が上がっていくのが自分にでも分かる。
「芹奈先輩と一緒に居たい。先輩が好きだから…」
「……」
「って別に俺の気持ち伝えただけだから」
「……」
「芹奈先輩、俺の事に眼中ないって分かってっし。でも、今は抱きしめさせて」
ぎゅっと抱きしめ、先輩の肩に顔を沈める。
例え、芹奈先輩の理想が俺じゃなくても、それでもいい。
ただ、この瞬間を浸りたい。
「…眼中なかったら来ないよ」
「え?」
籠る様に聞こえた芹奈先輩の声に耳を傾ける。
「ずっと、ずっと透哉君の事気になってた。会わない方がいいって言ったのあたしなのに、でも会いたいってずっと思ってた」
「ここに一度来たってほんと?」
「うん。でもお姉さんに最近ずっと帰って来てないって言われたから帰ったけど、でも会いたくて。会って、ちゃんと話がしたいって思った」
「…先輩?まじで俺、先輩の事が好きだわ」
「あたしも好きだよ」
「いや、それは多分間違ってる。俺の好きと先輩の好きは違うと思う」
「え、なにそれ。間違わないし」
初めて微かに笑った先輩が愛おしく思う。
それでも俺は先輩と同じ気持ちならばと…



