「芹奈、先輩?」


ゆっくり俺の手が伸びる。

だけど躊躇した手が再び元の位置に戻る。


「…ごめんなさい」


暫くして小さく漏れた謝罪の言葉。


「何で謝ってんの?」

「麻友から聞いた。あたしの所為でごめんなさい」

「だから何で謝んの?」

「あたしの所為で透哉くん停学でしょ?」

「いや、って言うか俺別に先輩の為にとかじゃねーし。ただムカついて勝手に俺がやっただけ」

「でも。…手、大丈夫?」


芹奈先輩の視線が俺の手へと移り同じように俺も視線を移す。

手の甲から腕にかけて無数の傷が目に入り、軽く摩った。


「大したことねぇし」

「大した事ないって、そんな事ないじゃん」

「……」

「心配した。物凄く心配した」


再び膝を抱え顔を埋める先輩は泣いてるんだろうか、声が震える。

それは俺だって同じで。


「俺の方が心配した」

「……」

「なんとなく分かってた事なのに芹奈先輩を助ける事が出来なかった事、後悔してる」

「…あたしはもう、大丈夫だよ」

「は?大丈夫じゃねーだろ。しかもこんな時間に来て、何かあったらどーすんだよ」

「なんとなく昼間は人目につくから…」

「だからってこんな時間に…連絡ぐらいしろよ」

「あたし、透哉君の連絡先知らない」

「あ、…うん、そうだったよな」


つい勢いに乗ってしまった言葉に、墓穴を掘る。

そして軽く一息吐き俺は再び口をひらいた。