司のオフィスは薄暗く、彼はヘッドフォンを装着しパソコンに向かっていた。
 
 集中力を要するときはこのスタイルだと誰かが言っていた。
 

 司は黙々と画面に向かっていた。
 
 人の気配がしても気にならないらしい。
 
 ただ、指先と眼球だけが動き続けている。
 

 伊崎によると、今は某パークに映し出すプロジェクションマッピングの制作中で、クライアントの希望とスタッフのアイデアで決まったデザインを、司が形にしている。
 

 イメージから実際の映像として作り出す技術は、この会社で司の右に出るものはいないと聞いた。
 
 何もないところから、ひとつの世界を創り上げる様子は同僚から「あれは魔法使いだな」と言われているらしい。



「すごい……」

 美桜は思わずそう呟いた。
 

 まるでピアノでも演奏しているかのように、司の手が動く。

 考えながら打ち込んでいるようには見えず、それは頭に浮かんだコードをただパソコンに打ち込んでいるように見えた。
 
 作曲家が頭に浮かんだメロディーを、譜面に書き写すような。
 

 それにしても早すぎる。

 迷いが一切ない。


 一通りプログラミングの勉強してきたものの、その打ち込みの速さに美桜はパニックになっていた。