小川を見つけ、貪るように水だけを飲む。そのままそこに倒れ込んでいたら、目の前にパンを持った少女がいた。

 三日食べていなかったから、目の前にあるそれに逆らえなかった。少女の手からパンを奪い、ろくに咀嚼もせずに飲み込む。

 目の前にいる少女が、目を丸くしているのに気が付いて、ようやく自分が何をしたのかに思い至った。

 ルディガーが、ラマティーヌ修道院に身を寄せるきっかけとなったのが、このディアヌとの出会いだった。

 ラマティーヌ修道院に、憎むべき相手の娘がいるというのは、ルディガーも知っていたけれど、自分に無邪気になつくディアヌを見ていたら、そんな憎しみもどこかに行ってしまった。

「どうして、俺を助けようと思った?」

 クラーラ院長は、昔、傭兵として戦場を渡り歩いていたらしい。たしかに孫のいる年齢の女性にしては、動きが力強いというか、年齢不詳の若さがある。修道服に身を包んでいても、彼女のまなざしは、いつも鋭く、嘘を許さないという気概に満ちていた。

「どうして助けたのかって、まさか——あのまま野垂れ死んだ方がよかったと?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」

 今、ディアヌはジゼルと一緒に行儀作法の勉強とやらに行っている。この修道院にとどまる代償に、労働力を提供するよう言われていたから、ルディガーは庭でせっせと薪を割っていた。

 あの時は死んだかと思いかけたが、どういうわけか、今はこうして、生きながらえている。傷が治ったら、外に戻っていくつもりだった。