この提案までは考えていなかった、ということなのだろう。
だが、ルディガーと人生を共に歩むつもりはない。彼にふさわしいのは、光の当たる道だから。
主君を殺し、その妻を奪い、民を苦しめてきた男の血なんて、後世に残すべきではない。ただ、ほんの一時だけルディガーの側にいることくらいは許してほしい。
「では、二年たったら、離縁を。私がルディガー陛下に望むのは、国を平定するまでの間、白き婚姻を貫いていただくことです。王位継承権をお渡しした後、離縁してください」
「それでは、お前——いや、あなたにとって何の利益もないではないか」
ルディガーが、困惑した声を上げる。
「父の血が絶たれるのであれば、私の評判など安いものだとは思いませんか?」
ルディガーに向けたのは、完璧な無表情。心のうちを彼に見せたくなかったら、無表情を貫くしかなかった。
「では、私はこれで失礼します。お渡しした品、陛下の方が上手に活用できるでしょう。勝利を祈願しております」
ディアヌはこの部屋に入ってきた時のようにフードを深くかぶる。くるりと向きを変えたディアヌを呼び止めたのはルディガーだった。
「どこに行くつもりだ?」
「戻ります。城に……私がルフェーベル家の者であることにはかわりがありませんから」
「これから攻める城だぞ。そこに戻ってどうする」
「来てくださるのをお待ちしております、陛下——私が、いなくなったことを知られれば、父や兄達も警戒するかもしれません」
「だが!」
「私とジゼルは、城の奥に身を潜めています——なるべく早いうちに迎えに来てくださいませ」
彼に向けた笑みは、少しだけこわばっていたかもしれなかった。



