不器用な殉愛


 彼は引き留めようとはしなかった。その彼の沈黙に、なんだか不気味なものを感じる。

「ジゼル、いつでも出られるようにして。部屋の外に注意を払っておいて——疑われてはいないと思うけれど」

「……何か、気づかれましたか」

「わからないわ。それより——薬をもう少し用意できないかやってみましょう。傷を負う兵士が出るのは、絶対だから」

 いつもと違う行動をとれば、ジュールにこれからの行動を悟られかねない。

 城の中庭にある薬草園に行き、必要なものを摘み取る。それから、倉庫に向かい、山ほどあるシーツを鍵のかかる部屋へと運び込んだ。これを切れば、包帯代わりに使うことができるだろう。

 もし、必要とあらばジュールはディアヌ達の部屋に鍵をかけることもできたはずだ。だが、彼がそのような行動に出ることはなかった。

 その日の夜、日付が変わる頃、ディアヌはジゼルだけを連れ、ひそかに城を抜け出た。ルディガーのところにまでたどり着けるかどうかわからない。

 だが、今日までの間に集めてきた情報だけは——どうにかして彼に渡さなければ。彼がそれを受け入れてくれるかどうかはわからないけれど。

「……本当によろしいのですね?」

「ええ。これをルディガーに渡すことができたら——悔いはないわ。付き合わせるあなたには申し訳ないけれど」

「いえ。姫様が死ぬ時は私が死ぬときですから」

 ジゼルが微笑んでくれると、それだけで心が強くなる気がする。馬にまたがった時には、心は落ち着きを取り戻していた。