父が、まさかこんなにも守りの体制に入るとは思っていなかった。長年の間、直接戦場に出ることもなく、贅沢な生活を謳歌していただけに、腰が重くなっているのかもしれなかった。
「……準備はできていますか」
「日付の変わる頃、裏門のところに馬をつなぐようにと申しつけてあります」
隙を見て、ジゼルを何度か城の外に使いに出し、城下の商人とつながりを持たせた。自在に動けないので、誰か代わりに動いてくれる人間が必要だったのだ。
どうにか、ルディガーのところにまでたどり着かなければ——たどり着きさえすれば、あとはどうにでもなる。いや、彼がどうにかしてくれる——人の力に頼らなければいけない現状を情けなく思ったけれど、それしかなかった。
「その商人は、約束を守ってくれるかしら」
「守りますとも。前金として姫様の指輪を一つ——そして、もう一つは全てが終わった後に渡すと言ってあるので」
「それならいいの。問題は、私が暗い中で馬に乗れるかどうかよね」
長い廊下には、二人の足音だけが響いている。
「……本当によろしいのですか」
「ええ。だって、他に手はないもの」
もし、ディアヌにもっと力があったなら、迷うことなく父と兄達を殺していた。だが、誰か一人を手にかければ、すぐに犯人は誰かわかってしまう。
三人すべてを一度に排除する方法が思いつかないまま、ここまで来てしまった。
「とにかく、日付が変わるまで——あら」
部屋のところまで戻ってきたら、扉の前に誰か立っている。
半分扉にもたれるようにしていた彼が、二人が近づくのに気づいたように顔を上げる。



