不器用な殉愛


「だが、もってひと月だ——ふた月はもたない」

「たくさんの血が流れますね……」

 それきり、二人の間には沈黙が満ちた。

 きっと、この人は——機会さえあれば、父も裏切るのだろう。

 ならば、彼が裏切る機会さえ作ってやればいいのではないだろうか。父も異母兄達も——分が悪いとなれば、きっとこの人はすぐに見捨てるだろう。

「……私は、部屋に戻ります。侯爵もお気をつけて」

 言外に滲ませた意味を、彼はくみ取ってくれただろうか。それを判断する術をディアヌは持ち合わせていなかった。

 向きを変えて歩き始めたところで、ジゼルが慌ててやってくる。彼女には、城内の様子を探ってくるようにと頼んでいた。

「姫様、こちらにいらしたのですか」

「——ジゼル。両軍はいつぶつかり合うかしら」

「セヴラン軍はちょうど陣を敷き終えたところです。陛下はこちらから出るつもりはなさそうですね」

「その気概も……もう、持ち合わせてはいないのではないかしら」

 二人の足音だけが、石造りの廊下に響く。戦を控え、本来なら兵士達が右往左往しているであろうに、不気味なくらいに静まり返っていた。

「お父様も、お年を召した——守りに入っているのではないかしら。なんとかしばらくしのいで、ルディガーから譲歩を引き出す。少なくとも、この城は守りには適しているそうだから」

 先ほどのヒューゲル侯爵の話を思い出す。彼が、この城の守りを固めたのだと言っていた。

 異母兄のジュールとヴァレリアンは、ルディガーと戦場で決着をつけることを望んでいるだろう。