三歳の頃、修道院に送られ、それきり会うことがなかったというのは、トレドリオ王は知らなかったようだ。彼の表情がそれを物語っている。

「そう、ですか——会ったことがなかった、と」

「父と会ったのも……城に戻ってからでしたから。母の肖像画を見せてほしいと頼んだこともあったのですが、見せてもらえなくて。ありがとうございます、母のことを話してくださって」

 その話を横で聞いていたルディガーが、トレドリオ王のために席を用意させる。少し、話をしろということなのだと解釈した。

 さっさと部屋に戻るべきではないかと思う反面、母のことを聞けるのが嬉しい。

「そうですね、ブランシュ王妃様は……」

 母の若い頃の話を聞かされれば、どうしても今は亡きトレドリオ王との話になる。若く美しい王と相思相愛だった王妃。だが、彼の子供を身ごもった直後、夫の命を奪われることになる。

 トレドリオ王は、用心深くそのあたりには触れなかった。ただ、母の若い頃、トレドリオ王国内の若い男はみな彼女に夢中だった、だの、淡いピンク色のドレスがよく似合ってとても美しかった、だの。彼の口から聞かされる母の姿は、ちょうど今のディアヌと同じくらいの年齢で——その頃、愛する人との生活を謳歌していたということを知らされる。

「ありがとう、ございます。本当に……母のそんな話を聞くことはありませんでしたから」

 だが、トレドリオ王の話を聞かされれば聞かされるだけ、自分の身と比べて違いに身をつまされるような気がした。