「お前は何も感じないのか? 国外に出たジュールを追う必要はないだろう。もちろん、ジュールへの寝返りも考えられるとあの時言ったのは俺だが——侯爵なら、俺よりジュールの性格を飲みこんでいるだろう。処罰されるのは予測できたはずだ」

 負傷したと聞いた時には、ジュールへの寝返りを目論見返り討ちにあったのだと思った。だが、あれから届けられた報告、侯爵自身のその後の行動を見ても、その可能性は低そうなのだ。

 侯爵は、身を寄せていた国内で、ベッドに身を横たえながらも、ジュールの行方を追い続けていた。そして、ジュールを追う許可を得てくれと、何度もルディガーに訴えかけてきたのである。

「ルディガー様の配下に入った以上、何か手柄を立てねばと焦っているのかもしれませんが」

「それならそれでいい。城内に置いている間は、侯爵の気もすむだろうから」

 侯爵の身の回りのことは、修道女達だけではなく、城で生活している者達に任せてもいい。仕事がなく、その日の食べ物にも困る人間はたくさんいる。城内を整えていくためにも、人では必要だ。

「——どちらに行かれるのですか」

「『アメリア』の様子を見に行く」

「ほどほどにした方がいいですよ。ルディガー様が、修道女見習いにご執心なんて噂がたったら困ります」

 ノエルの懸念もわからなくはないのだが。

 触れたいのを懸命にこらえ——しばしばこらえきれなくなるのも否定しない——て、見守るのに徹しているのだから細かいことは気にしていられなかった。