恋愛って複雑だ。
好きになって、想いを伝えて、受け取ってもらえたら、恋人になれるんだと思ってたのに。


一緒にご飯を食べて、送ってくれるのは、これで4回目。
2回目のとき手を繋いで、発火するほど幸せだったのに、もう今日は落ち込むだけ。

手を繋いだら恋人なの?
何をしたら恋人だって言えるの?
キスをしたって、身体を重ねたって、恋人じゃないって人も世の中にはたくさんいる。

恋愛って複雑だ。
わたしには、恋人がなんなのか、よくわからない。

顔を見られただけで嬉しかった。
挨拶されただけで幸せだった。
あの気持ちは、どこへ消えてしまったの?


桜とは無縁な卒業式シーズンが終わり、「春の嵐」という名の猛吹雪が吹き荒れたあと、現金なほどの晴天が雪をどんどん溶かしていく。
雪の間は耐えていたブーツに、びしゃびしゃの泥水が染み込む。
濡れたブーツと、繋いだ右手が、とても寒い。
雪明かりの消えた通りは暗くて、見上げるあなたの横顔からは何もわからない。

心の色が見えたらいいのに。
そうしたら、今あなたは、ちゃんとピンク色をしててくれる?
落ち着いたブルーだったらどうしよう?
無色も怖い。
それなら見えない方がいいかもしれない。


「あの、これ」

別れ際、あなたがずっと持っていた紙袋を差し出す。

「ホワイトデー。何が好きとか、わからなくて」

袋の中にはたくさんのお菓子と、ピンク色のラナンキュラスのミニブーケ。
迷ったものを全部入れたようなその中身と、両手にお菓子を抱えるあなたを想像して、顔が緩んだ。

「ありがとうございます!」

「それで……その、バレンタインにくれたチョコレートって、本命でいいの?」

思いがけない質問に顔を上げると、あなたはふいっと横を向いてしまう。

「……え?」

「あれは、どういう意味だったのかなって、ずっと考えてて」

「わたし、『好き』って言いませんでしたっけ?」

「言ってない」

「え?言いましたよね?」

「言ってない。絶対」

こんなにこんなに好きなのに、この想いは伝わってなかったの?

「職場の人に『彼女です』って言ってもいい?」


恋愛って複雑だ。
頷いて抱きついたあなたの胸は、今度こそあたたかかった。

心の色は見えなくていい。
見えてしまったらきっと、私は世界をピンク色に染めてしまうから。






end