そして放課後、浜校の生徒が待っている駅で降りた。
切符を渡し、人を避けながら商店街を下る。


浜校の校門前で深呼吸する。
蔵王さんはいるかな。昨日はライブがあって家にいなかった。夜まで外にいたらしい。


蔵王さんは何かが終わると人気のないところに行く。
テストの後でも、ライブの後でも。


そうだ、裏口から入るんだった。
久しぶりだから忘れていた。


車が出ていった後、誰もいないのを確認して侵入する。
誰も見ていないところを見つけ、物に隠れながら移動する。ゲームの主人公になった気分だ。


冬でも木が鬱蒼と茂る場所に蔵王さんはいた。
天然の冷蔵庫と言ってもいいくらい、空気が冷えている。


「緋梅……」


蔵王さんの冷たい視線が刺さる。
あまりの冷たさに心臓が止まるのではないかと思った。
胸が痛い、言葉が中々出ない。


「蔵王さん、ごめんなさい……。あの日ひどい嘘をついて、退部させて……」


許してもらえるとは思っていない。
しかし、何も言わずに風化させていくのは嫌だった。人を傷つけたまま放置し、他の人と笑って生きるのは嫌だった。


「もういいよ」


蔵王さんは視線を下に落として、僕に向かってくる。


「俺も少し言いすぎた。俺の後輩が止まったままの訳がないな。何だかんだ言って緋梅は前に進もうとする」


「蔵王さん……!」


温かい涙が溢れた。頬を伝い、ぼたぼたと落ちていく。


「次から次へと流れてくるぞ。ハンカチは?」


「あ……体操服のポケットに入れたまま……」


「仕方ないな」


蔵王さんはハンカチで目をおさえ、頭をぽんぽんと叩く。


「またやり直そう。泣き止んだ方がいい。ほら、彼女に見られてるぞ」


後ろを振り返ると、メレンダが木に手をついてじーっと見ていた。


「メレンダ……!どうしてここに!?」


「定期使わず切符を買っていたから、怪しいなって思って……。降りたふりして別の車両に乗って、後をつけてたの」


メレンダがそんなことを!?侮れない……!
固まっていると、遠くからじりじり近付いてくる存在に気付いた。


「メレンダ……帰るよ、早急に」


「何?」


「メレンダちゃん、先生が迫ってきてる!」


「そこの浜商ー!」


しかも二人だ。僕はメレンダの手を取り、走り出した。


「それではまた!」


「無事を祈る!」


校舎で曲がり、正門から逃げることにした。