スーパーに入り、自動販売機でココアを買う。こぼさないよう、休憩所の椅子にゆっくり座った。
一口飲むと落ち着いた。


ほっと息を吐く。
僕がギターを弾けなくなったのは、2か月前のことだった。



今日はライブについての大事な話があると言われ、高校まで走っていた。
裏のルートから侵入し、活動場所を目指す。他の生徒にばれていたが、先生に言わないという暗黙のルールができていた。


「少し遅れたな、ごめん」


ドアを閉めながら言った。


「いいよ」


ボーカルの永田が紙から目を離して言った。
いつもの席に座ると、永田がペンを回しながら話し始める。


「今度のライブのことなんだけど……」


さて、今回はどんな曲だろうか。




「僕と、照先、鈴城、守築、蔵王さんでやる。はい、緋梅は帰っていいよ」


永田はそう言った後、紙をぺらぺらと捲る。


「ちょっと待ってよ、そんな急に……理由は!?理由もなく追い出すことが許される訳ないだろ!」


まだまとまっていない言葉が、舌を噛みそうになる勢いで飛び出る。
ギターは僕じゃなく蔵王さんに変わる。そんな重要なことを軽く言われたのもショックだった。


「理由?緋梅は気づいていなかったの?蔵王さんに追い抜かれたんだよ。緋梅は頭打ちしただろう?その間に蔵王さんはものすごく上手くなっていたんだよ」 


伸び悩んでいたのには気付いていた。しかし、それが理由で変えられるとは思っていなかった。


「勝手なことするなよ!そんなの、本人の了承もなく変える理由にはならないぞ!」


「何言ってんだ?お前、蔵王を退部させたとき止めなかっただろ?それは、実力があるやつだけ残るこのやり方に従うということだ」


照先に何も言い返せない。
そうだ、僕は蔵王さんが無実の罪で退部させられたとき、止めなかった。
蔵王さんがいなければ、僕が出る機会が増える。
そうしてこのバンドの正式なメンバーになった。


「緋梅、お前の時代は終わった。お前がちんたら進んでいる間に俺は変わった。中途半端なやつが卑怯なやり方で手にいれた栄光なんて、永続きしないんだよ」


ギターを教えてくれた人を見捨てて手にいれたものは、あっという間に崩れ去った。
賞状も、箱一杯のファンレターも、過去のものだ。


「じゃ、詳しく説明するよー。蔵王こっち見てー」


話し合いは僕抜きで進む。
誰も僕を見ない。


自分の意識はある。しかし、姿が無いのではと思ってしまう。
僕は本当にここにいるのか?本当にメンバーだったのか?


頭がくらくらする。
もう出ていくしかない。僕は静かに出た後、隠れることなく校舎から走り去った。