5年……あっという間だった。
 その間に何もできない腑抜けな俺は黒谷との関係を失いたくないと思うくらいに本気だった。

 30を過ぎたおっさんが年下の女の子に情けない話だ。
 そのくらいの気持ちだったって言ったところで……。

 けれど当たり前と言えば当たり前に元彼を選んだ黒谷を諦めるべきで……。
 最後だと心に決めて、ダメならきっぱりやめようと黒谷の元へ向かった。


 シンプルなドレスに身を包んだ黒谷はお似合いの彼と並んで歩いていた。

 自分はと言えば髪を切って整えたのはいつぶりか分からない。
 スーツだって……黒谷に一瞬でも俺のことを見てもらえるように……。

 そんな自分は独りよがりでひどく無様だった。

 見たくない現実。
 いや。見なきゃダメだ。
 これが……最後だから。

「2次会は行くの?
 それまでお茶でもしない?」

 軽いノリで声を掛けるくらいしか俺にはできないって黒谷は知らない。

「え……。でも………。」

 戸惑っている黒谷に胸が痛い。
 しかし隣の男の発言の方がひどく俺の心を抉った。

「俺はいいから行っておいでよ。」

 俺なら黒谷を他の男に渡したりしない。
 男なんて誰しも紳士の皮を被った下心しかないような生き物なのに……。

 手に入れた男の余裕ってやつか。

 黒谷も言われるまま車に乗った。

 黒谷にとってはたかが2次会までの時間。
 だからってどうして彼氏より俺を選んだりするんだ。


 やるせない気持ちは黒谷の涙を見て……箍が外れるには十分だった。

「なんで車に乗ったんだよ。」

 本音がこぼれ落ちるともうダメだった。
 目の前で彼氏を選んで断られれば、すっぱり諦めるって決めていたのに。

 黒谷の気持ちを無視して、貪るようにただただ黒谷を求めた。
 そんなことしても俺の手には入らない。
 初めて本気になった女を………。