いつものように休み時間、倉橋が悪巧みしているような顔で近寄ってきた。

「佐野さん。
 いいお店、見つけたんです。
 今度、行きません?」

「……あぁ。また今度な。」

「可愛い女の子いっぱいっすよ。」

 耳打ちされた耳寄り情報にも心は踊らない。

 どうしたっていうのか。
 原因は……まさか、な。




「佐野さん。おはようございます。」

 真面目な黒谷は挨拶を欠かさない。

「あぁ。早いな。おはよう。」

「佐野さん。ネクタイ曲がってますよ?」

「……直してくれ。」

 口をついて出た言葉は完全に自分の願望。

「…………。」

 冷たい視線。それなのに笑えてくる。
 黒谷と話せて喜んでるとか、中学生かって。

 いかがわしいお店の可愛い女の子情報に心踊らなかったくせに。

「冷たいなぁ。黒谷は。
 お前にならネクタイ締めるふりして首を絞められても本望だぞ。」

「はいはい。言っててください。」

 あの時みたいには、笑わないか。

 がっかりしていると不意打ちで黒谷の笑顔が視界に入った。

「佐野さん営業成績1位ですって。」

 貼り出された成績表。
 それを指差した黒谷が自分のことのように喜んだ。

「あぁ。まぁな。」

 まずい。マジで落ちたろ。これ。