「本当にいいんですか?」

「あぁ。」

 今日は大学の頃に天体観測という名の合宿をした場所に来ていた。
 着いてから念押ししても遅いのだけれど、もう何度目かの念押しだ。

「で?ここで寝転がるのか?」

 レジャーシートを敷くと、佐野主任が大きな体を転がせた。
 縦に長いから脚ははみ出ている。
 その姿がなんだか滑稽で似合わない。

「何、ぼやっとしてるんだ。
 俺だけ寝転がる恥ずかしい罰ゲームか?」

 寝転んだ佐野主任に手を差し出された。
 その手に応えて胸に飛び込めるほど可愛くはなれない。

 伸ばされた手に自分の手を重ねて、少し距離をあけて隣に寝転がった。

 目の前には落ちてきそうな一面の夜空。
 満天の星空は怖いくらいに綺麗で…。

 隣から腕が伸びてきて抱き寄せられた。

「佐野主任…苦しいです。」

「馬鹿。素直に胸、借りとけよ。」

「どうせ素直じゃないです。」

 かすれた声は次第に涙で濡れていく。

 だから嫌だって言ったのに。
 頭上にはシリウスが輝いていた。

「焼け焦がす思い…か。案外キザなんだな。」

「…そういうんじゃないですってば。」

 大学の頃に隆弘が言った言葉。

「俺にとって朋花はシリウスだな。」

 それが心に残っていた。

『焼け焦がす思いだ』と直接言われたわけじゃない。
 ただシリウスの名前の由来が『焼け焦がす』なだけ。

 隆弘との思い出が大き過ぎて星空を見られなかった。
 その話を何かの拍子に話したばっかりに。

「いい恋愛してきたんだな。
 俺にはそんな綺麗な思い出はないな。」

「遊んで過ごしてたからですか?」

「はいはい。どうせそうですよ。
 いい加減、イメージを一新してくれよ。」

 こんな戯れ合いもいつも通りで。
 けれど今ではこの続きがある。

「黒谷が俺の目を覚まさせたのにな。
 本人は無自覚だからな。」

 結局はいつも通りの戯れ合いの言葉とあまり変わらない。
 けれど気持ちのこもった言葉…だと思う。