目的地に着いたようで車は駐車された。

 すると運転席から手が伸びて体を引き寄せられた。
 大きな優しい手は頭を撫でる。

「本当に俺の幸せを考えてくれてるのか?」

「えぇ。」

 あの時と変わらない優しい佐野主任。
 これからはこんな風に会ってはダメだ。

 それなのに………。

「それなら、どうして泣いてるんだ。
 黒谷が幸せそうじゃなきゃ無理だって言ったろ?」

 優しくて少し呆れた声。
 涙は自分の意思とは関係なく流れていた。

 優しく撫でてくれる大きな手は涙を余計に助長して、後から後からあふれてくる。

 不意に佐野主任は俯く顔を覗き込むと涙にそっとキスをして、それから朋花の唇にも触れさせた。

「なんで車に乗ったんだよ。」

 やるせない気持ちが滲み出た小さな声がして、再びキスされた。

「ん…や……。」

 抵抗も虚しく引き寄せられて抗えない。
 離された唇はすぐに重ねられて、確かめるように、次第に貪るように何度も何度も、何も考えられなくなるような深いキスへ。

「ダメだ……足りない。」

 唇の隙間から漏れる吐息混じりの声に切なくなって胸が痛くなった。