仕事を終え、体験できると書かれていたチラシ片手にジムへと向かった。
 職場からアパートに帰る途中にある朋花からしたら、かなりの好立地。

 駅からほど近く、新しいだけあって綺麗なビルだ。
 見上げれば2階はガラス張りなっており、汗を流す爽やかな人達がいることが分かる。

 私は……窓際は無理だな。
 奥でやらせてもらおう。

 そんな感想を持ってビルの中に足を踏み入れた。


 体験に来たんですけどと受付をすませると男性インストラクターの人が説明してくれた。
 器具の使い方などで分からないことがあれば聞いてくださいと言われる。

「黒谷さんみたいな美人にならいくらでも教えますよ。」

 一通りのお世辞を言われて、インストラクターの人が一緒にぐるっと案内してくれるらしい。

 更衣室は1階。着替えを済ませるとフロントで声をかけた。
 今度は女性スタッフが案内してくれるという。

「ごめんなさいね。
 さきほどのインストラクターが失礼じゃなかったですか?」

 とてもすまなそうにされて、こっちが恐縮してしまいそうだ。

「いえ。丁寧に説明してくれましたよ。」

「女の人を見ると節操がなくて。
 器具の使い方も念のため女性スタッフに聞いてくださいね。」

 ハハハッと笑って誤魔化しておいた。

 どこにも佐野主任みたいな人はいるんだなぁ。
 行き過ぎなければ人懐っこくて親しみやすいんだけど。

「ジム会員の中にもジムで出会いを求めてる勘違いな人もいて。」

 スタッフの人の言葉にギクリとする。

 瑛士の「ジムで出会いもいいな」を本気にしていたわけじゃないけど。
 やっぱりここには運動不足解消のために来るべきよね。

 気持ちを新たにしながら、2階の器具やマシーン、ヨガなどをするスタジオがある階へと階段を上った。