「そうだろうね。
 会ってすぐに思い出したよ。
 朋花が遅刻魔だってこと。」

 やっぱりジムの後の待ち合わせで遅れたこと嫌だったんだ。

「それは………。
 あの頃は待ち合わせに行って居なかったらショックだから。」

「そんなに俺に惚れてたの?」

「そうよ。悪い?
 私には隆弘が全てで隆弘しかいなかったの。」

「当時はでしょ?」

 当時は……そうなのかな。

「自分で振っておいてどんな面して会えばいいんだろうって思ってさ。
 やっぱり嘘をついて近づこうなんてダメなんだよな。」

 隆弘は眉尻を下げて悲しそうな顔をした。
 やだよ。全部を終わったことにしないで。

 また悲しい別れが迫っている気がして隣にいる隆弘の手をつかみたくなる。

「朋花は自分が可愛いことを分かってないんだよ。」

「はい?」

「それなのに俺のこと好き好きって来てくれてさ。
 周りの奴らにどれだけ僻まれたか。」

 知らなかった。
 でもそれは冷やかされてただけで可愛いなんて絶対に隆弘の色眼鏡が入ってる。

「自己評価が低いんだから。
 危なっかしくて。」

「そういうことも言ってくれなかったね。」

「言えなかったかっこ悪くて。
 大人になった今なら言えるかと思ってた。
 だけど飲みに行くなとは言えなくて。
 例え付き合ってても言えなかったよ。」

 確かに、行くなと言われても困る。
 私は5年の間に変わった。
 それは大人になったということだと思っていた。

「それなのに気になって駅前に行って……。
 見かけた朋花をつけるような真似してさ。
 そっちの方がかっこ悪いよな。」

「隆弘も変わったよね。
 前はこんなに話す人じゃなかったでしょ?」

「ハハッ。喋れない教師なんてダメだろ?
 必要に迫られてさ。
 それなのに大事なことは今も言えないままじゃ変われてないよな。」

 隆弘に手を握られてドキッとする。
 顔を上げると目が合った。

 そこには5年前と変わらない隆弘がいて。

「好きだよ。朋花。」

 隆弘の言葉に胸が痛くなって何も言えなかった。

「今ならきっと上手くいくよ。」

 同じ思いだった隆弘の言葉に躊躇しながらも小さく頷いた。

 痛くて辛くて悲しくて。
 そんな5年間の思いをもうしたくなかった。