「朋花………。」

 来た道を戻ると佐野主任が言うように隆弘は先ほどの場所に立ったままだった。
 木枯らしが吹く中で佇む隆弘は頼りないほどに暗い顔をしていた。

「話、聞かせてくれるよね?」

 力なく頷いた隆弘と近くの公園へ足を向けた。
 自販機で温かい飲み物を買って、隆弘にも渡す。

 先に口火を切ったのは朋花だった。

「本当は何もかもが嘘なの。」

 隆弘に話したいことは自分もあって、隆弘から何か言われる前に口を開いた。

 今さら思い出した。
 隆弘は嘘が一番嫌いだった。
 そんな人に嘘をついて近づこうとしたのが間違いだったんだ。

「どういうこと?」

「信じてくれるか分からないけど………。
 私達、大学生の時に付き合ってたの。」

「そうだったんだ。
 ………忘れててごめん。」

「ううん。私も言わなくてごめんね。
 それで……。
 好みは全部知ってたから、それをさも自分が好きみたいに言ったの。」

「そうなの?本当は好きじゃないのに?」

「うん。私はこんな私じゃないの。
 だからごめん。」

 思えばずっと無理していた気がする。
 隆弘が好きだから隆弘に合わせるのが当たり前だと思ってた。

 スイーツは好きじゃないけど一緒に食べて。
 本当はお酒好きなのに一緒にいる時は飲まなかった。

 他にも大学の頃には山登りも付き合って好きでもない歌手のバンドを聞きに行ったりして。
 自分の世界が隆弘の好きなもので染められて嬉しいって思ってた。

「本当の朋花ちゃんは違ったんだね。」

「うん。ごめんね。」

「本当は激辛好きだし?」

「え、うん。」

「山登りなんかより家でDVD見てたいし?」

「そ、そうなの。」

 再会してからたまに見せる意地悪な笑顔を向けられて戸惑う。

「知ってたよ。」

「そっか。顔に出てた?」

「うん。出てた。5年前も。」

「………え?」

「無理してたでしょ?あの頃も。」

「どうして………。」

 やっぱりさっき朋花って呼んだのは……。

「記憶が無くなったのは嘘なんだ。
 俺も嘘ついてたから。」

「嘘、一番嫌いなのに?」

「うん。嫌いなのに。」

「どうしてそんな嘘………。」