「朋花!」

 え………。今の声って。

 驚いた佐野主任も振り返って、その人を確認する。
 佐野主任越しに見えたその人は隆弘……。

 すごい勢いで近づいてきた隆弘に手を引かれて、佐野主任から離された。
 そのまま連れて行こうとする隆弘の手を振り払う。

「朋花……。」

 見開いた目には悲しそうな色が映っていた。

「どうして隆弘くんがここに?
 それにあの人は会社の上司なの。
 失礼な態度だよ?」

「朋花は上司とキスするのかよ。」

「ただ顔についたゴミを払ってくれただけ。」

 隆弘らしくなかった。
 別人みたいな隆弘に驚きが隠せない。
 5年前の隆弘もこんな風ではなかったし、何より隆弘『くん』らしくない。

 後退りして、逃げるように佐野主任の元に戻った。

「すみませんでした。
 佐野主任、行きましょう。」

「いいのか?
 彼、放っておいて。」

「いいんです。行きましょう。」